マレーシア移住
マレーシア移住ガイド【2026年版】条件・費用・ビザを決める順番
最終更新日:2026-08-07
マレーシア移住の情報は「生活費が安い」「英語が通じる」という話から始まることが多いのですが、実際に検討を進めると、ほぼ全員が同じ壁に当たります。ビザです。マレーシアには「移住ビザ」という単独の制度はなく、長期滞在の入口は実質4つしかありません。そして、どの入口を通るかで、必要な資産も、住める年数も、働けるかどうかも、家族を呼べるかも変わります。この記事では、費用や街の話に入る前に「あなたはどの入口を通れるのか」を判定し、そこから逆算して予算と準備を組み立てる順番で解説します。
まず結論:マレーシア移住の入口は4つしかない
マレーシアに長期で住むための資格は、大きく4系統に分かれます。就労(Employment Pass)、投資・資産型(MM2H)、教育(学生パス+ガーディアンパス)、そしてリモートワーク(DE Rantau)です。このどれにも当てはまらない場合、残念ながら現時点で長期居住の道はほぼありません。
重要なのは、この4つが「選べる選択肢」ではなく「該当するかどうかが先に決まっているもの」だという点です。マレーシアで働く先が決まれば就労ビザ、子供をインターに入れるなら教育ルート、資産があればMM2H、海外企業からの収入があるならDE Rantau。自分の状況で該当するものは、たいてい1つか2つに絞られます。
逆に言えば、移住の可否は「マレーシアが好きかどうか」ではなく「4つのどれかの条件を満たせるか」で機械的に決まります。まずここを判定してください。
| 入口 | 主な条件 | 滞在期間 | 就労 | 向いている人 |
|---|---|---|---|---|
| 就労(EP) | 現地就職・駐在。月給RM5,000以上(2026年6月〜) | 最長5〜10年 | 可(勤務先限定) | 働いて収入を得たい人 |
| MM2H | 定期預金USD3.2万〜100万+物件購入 | 5〜20年 | 原則不可(プラチナのみ可) | 資産があり働かない人 |
| 教育(学生+ガーディアン) | 子供の就学+保護者の収入証明 | 就学期間 | 不可 | 子供の教育が目的の人 |
| DE Rantau | 海外企業からの年収USD2.4万以上 | 3〜12か月+1回更新 | 海外企業のみ | リモートワーカー |
前提の確認:ビザなしの90日では「住む」ことはできない
日本国籍者は、観光・商用目的であればビザなしで最大90日間マレーシアに滞在できます。この手軽さから「とりあえず住んでみて、ダメなら帰る」という発想が生まれやすいのですが、これは制度上の誤解です。
ビザ免除は「訪問」の資格であって「居住」の資格ではありません。就労はできず、賃貸契約や銀行口座の開設で不利になり、子供を学校に通わせることもできません。また、90日ごとに近隣国へ出国して入り直す、いわゆるビザランを繰り返す行為は、入国審査で滞在目的を疑われ、入国を拒否されるリスクがあります。実際に長期の居住実態があると判断されて入国を断られる事例は起きています。
入国自体にも手続きが必要です。パスポートの残存有効期間は入国日から6か月以上、未使用の査証欄が連続2ページ以上、そして到着3日前からデジタル入国カード(MDAC)のオンライン申請が必須です。復路の航空券も求められます。
したがって、現実的な進め方は「ビザなしで数週間〜数か月の下見をする」→「その間に長期ビザの取得を進める」という二段構えになります。下見は強く推奨しますが、それは居住のスタートではなく調査だと位置づけてください。
ステップ1:就労ビザは2026年6月に基準が上がった
働いて移住したい場合の中心はEmployment Pass(EP)です。ここで必ず押さえるべきなのは、2026年6月1日以降に提出される新規・更新の申請から、最低給与基準が大きく引き上げられたことです。
カテゴリーIは月給RM10,000からRM20,000へ、カテゴリーIIはRM5,000〜9,999からRM10,000〜19,999へ、カテゴリーIIIはRM3,000〜4,999からRM5,000〜9,999へ。つまり、EPで働くための下限が実質的にRM3,000からRM5,000へ上がりました。しかもこの金額は基本給のみで判定され、住宅手当や賞与は算入されません。
この改定の影響は小さくありません。マレーシアの給与水準は、統計局(DOSM)の2024年調査で平均月給RM3,652、中央値RM2,793です。つまりEPカテゴリーIIIの下限RM5,000は、すでに現地の中央値の1.8倍に相当します。「現地採用で気軽に移住」という選択肢は、以前より確実に狭くなりました。
さらにカテゴリーII・IIIでは、後任育成の承継計画(succession plan)の提出が必須化されました。企業側の手間が増えるため、雇用主が外国人採用に慎重になる方向に働きます。
- カテゴリーI:月給RM20,000以上/最長10年
- カテゴリーII:月給RM10,000〜19,999/最長10年・承継計画必須
- カテゴリーIII:月給RM5,000〜9,999/最長5年・承継計画必須
- 判定は基本給のみ。手当・賞与は含まない
- 2026年6月1日以降の新規・更新申請に適用
ステップ2:MM2Hは「働かずに住む」ための資産型ビザ
就労以外で最も知られているのがMM2H(Malaysia My Second Home)です。2026年時点では、ジョホールの経済特区を対象とするSEZを含めて4階層で運用されています。
ここで最も誤解が多いのが金額の単位です。連邦のMM2Hの定期預金はUSD建てです。シルバーでUSD15万、ゴールドでUSD50万、プラチナでUSD100万。日本語のウェブ記事には今も「シルバーはRM50万」という記述が残っていますが、これは要件が異なるサラワク州の別制度(S-MM2H)との混同によるものです。円換算では、シルバーでもおおむね2,000万円台の資金拘束になります。
そして定期預金とは別に、物件購入義務があります。シルバーならRM60万以上。ただしこれは「MM2H側の最低ライン」であって、州が外国人に課している最低購入価格とは別規制です。両方が適用され、高いほうが実際の下限になります。たとえばクアラルンプールの外国人最低購入価格はRM100万なので、シルバーでKLに買うならRM100万以上の物件が必要です。
滞在義務は年齢で変わります。年間の最低滞在日数(半島マレーシアで暦年累計90日)が課されるのは、おおむね25〜49歳の申請者で、50歳以上には最低滞在日数の定めが置かれていません。就労が認められるのはプラチナのみです。
| 階層 | 定期預金 | 物件購入義務 | ビザ期間 | 参加費 | 就労 |
|---|---|---|---|---|---|
| SEZ | USD32,000(50歳以上)/USD65,000(21〜49歳) | RM50万以上(指定エリア) | 10年 | RM1,000 | 不可 |
| シルバー | USD150,000 | RM60万以上 | 5年 | RM1,000 | 不可 |
| ゴールド | USD500,000 | RM100万以上 | 15年 | RM3,000 | 不可 |
| プラチナ | USD1,000,000 | RM200万以上 | 20年 | RM200,000 | 可 |
ステップ3:教育移住とリモートワークという2つの抜け道
資産も現地の就職先もない場合に、実際に日本人が多く使っているのが教育ルートです。子供をマレーシアのインターナショナルスクールに入学させると学生パスが発給され、保護者にはガーディアンパスが発給される仕組みがあります。母子で先に渡航し、父親が日本で働き続けるという形態も一般的です。
ただしガーディアンパスは自動的に取れるわけではありません。学校や申請時期によって、スポンサー(多くは日本に残る配偶者)の月収RM25,000以上の証明を求められる例があります。円換算で月98万円規模(1RM=39円)の収入証明であり、決して低いハードルではありません。学校選定の段階で、その学校のガーディアンパス実績と要件を必ず確認してください。
もう一つがDE Rantau(デジタルノマドパス)です。海外企業からの収入が年USD24,000以上(IT・デジタル職以外はUSD60,000以上)、デジタル分野の実務経験3年以上などが条件で、MDECのポータルからオンラインで申請します。有効期間は3〜12か月で、1回更新して最長24か月。マレーシア国内企業からの収入は認められません。
DE Rantauは「試しに住んでみる」用途に最も適した制度です。ただし最長2年で終わるため、その先も住み続けるなら、その間に就労・教育・MM2Hのいずれかへ乗り換える計画が必要です。
ステップ4:費用は「初期費用」と「毎月」を分けて見積もる
ビザの目処がついたら費用です。ここは初期費用と月々のランニングを必ず分けて考えてください。混ぜて計算すると、渡航直後の資金ショートを見落とします。
初期費用で最も大きいのは住居です。マレーシアの賃貸は初期費用がおおむね家賃の3.5か月分(前家賃1か月+デポジット2か月+公共料金デポジット0.5か月)で、家具付きが標準です。家賃RM4,000のコンドミニアムなら初期費用はRM14,000前後、円換算で約55万円。これに航空券、引越し、当面の生活費、ビザ申請費用が乗ります。
毎月の生活費は、生活水準によって倍近く変わります。ローカル寄りの食事と公共交通中心なら単身で月11万円程度から可能ですが、日本食中心・都心のコンドミニアム・自動車保有という日本と同水準の生活を再現すると、単身でも月30万円を超えます。物価が安いのは外食(ローカル)、公共交通、家賃であって、日本食材・輸入品・酒類・自動車は日本と同等かそれ以上です。なお本記事の円換算は1リンギット=39円(2026年8月時点の実勢)で計算しています。
特に自動車は要注意です。マレーシアは輸入車に60〜105%の物品税を課しており、日本車の新車価格は日本より高くなります。また、ガソリン補助金はマレーシア国民に限定されており、外国人は補助のない価格で購入します。
| 項目 | ローカル寄り | 日本と同水準 |
|---|---|---|
| 家賃(家具付きコンド) | RM1,500〜2,500 | RM4,000〜7,000 |
| 食費 | RM800〜1,200 | RM2,000〜3,000 |
| 光熱・通信 | RM250〜400 | RM400〜600 |
| 交通 | RM150〜300(公共交通) | RM1,000〜1,800(車保有) |
| 医療保険 | RM200〜400 | RM400〜800 |
| 月合計の目安 | RM2,900〜4,800(約11〜19万円) | RM7,800〜13,200(約30〜51万円) |
ステップ5:税金は「182日」と「日本側」の2つを見る
マレーシアの所得税法では、暦年で182日以上滞在すると税務上の居住者と判定されます。居住者は累進課税(課税所得RM5,000までは0%)と各種控除が適用されますが、非居住者はマレーシア源泉所得に一律30%が課され、控除は一切ありません。滞在日数が中途半端だと、かえって税負担が重くなる点に注意してください。
なお、MM2Hの滞在義務(年90日)と、この税務上の182日はまったく別の基準です。90日滞在してもマレーシアの税務居住者にはなりません。ここを混同した節税プランは成立しません。
外国源泉所得については、2024年の官報告示(P.U.(A) 451/2024)により、居住者個人がマレーシアで受け取る外国源泉所得は2036年12月31日まで免税とされています。ただし源泉地国で課税済みであることが条件です。
そして見落とされがちなのが日本側です。日本の非居住者になるには、住民票の転出届、健康保険・年金の手続き、場合によっては出国時の準確定申告が必要です。日本に不動産や配当収入がある場合、日本側の課税は続きます。マレーシア側だけを見た「節税移住」の計算は、日本側の判定を誤ると成立しません。渡航前に税理士に確認してください。
在留邦人は減っている:それでも移住する人は何を見ているか
検討の前提として、事実を1つ共有します。マレーシアの在留邦人数は減少傾向にあります。外務省の海外在留邦人数調査統計では、2020年の30,973人に対し、2024年10月1日時点で20,025人。ピーク時からおよそ3分の1が減った計算です。
「人気の移住先ナンバーワン」というイメージとは逆の動きですが、要因は複合的です。日系企業の駐在員削減、円安による生活実感の悪化(リンギット高で円換算の生活費が上昇)、そして就労ビザ要件の段階的な引き上げ。特に円安の影響は大きく、日本円の収入で暮らす移住者にとって、マレーシアの割安感は数年前より確実に縮んでいます。
それでも移住する人が見ているのは、生活費の絶対額ではなく別の要素です。英語とマレー語・中国語が混在する多言語環境での教育、日本より安価に入れるインターナショナルスクール、外国人でも所有権(フリーホールド)で不動産を持てる制度、そして温暖な気候と医療水準。この4つのいずれかに強い動機がある人は、円安下でも移住の合理性が残ります。
逆に「生活費が安いから」という理由だけで検討している場合は、円換算での試算を必ずやり直してください。動機がコスト差だけだと、為替が動いた瞬間に前提が崩れます。
移住が向く人・向かない人
最後に、これまでの条件を人物像に落とし込みます。
向いているのは、①マレーシアで採用が決まっている、または月給RM5,000以上のオファーを取れる専門性がある人、②子供の英語教育に明確な目的があり、学費と生活費を数年間払い続けられる人、③金融資産に余裕があり、USD建ての資金拘束を許容できる人、④海外企業からのリモート収入が安定している人です。
一方で慎重になるべきなのは、①収入の当てがないまま「行けばなんとかなる」と考えている人、②円建ての固定収入(年金など)だけで、為替変動を吸収できない人、③医療に高い要求水準があり、かつ保険予算を確保していない人です。マレーシアの公的医療は外国人には実質使えず、民間医療が前提で、非市民の民間医療サービスには6%のサービス税もかかります。
移住の可否は、気持ちではなく条件で決まります。まずは自分がどの入口に該当するかを確定させ、そこから予算と時期を逆算してください。個別の状況での判断に迷う場合は、無料相談で整理をお手伝いします。
出典
- 外務省「海外在留邦人数調査統計」
- 在マレーシア日本国大使館(査証・渡航情報)
- MOTAC「Terms and Regulations for New Participants Under MM2H」
- KPMG「Malaysia – New Minimum Salary Thresholds for Employment Passes」
- Fragomen「Malaysia: Minimum Salary Requirements for Employment Pass To Be Increased」
- LHDN「Residence Status — Section 7 ITA 1967」(182日ルール)
- LHDN「Non-Resident」(非居住者の税率)
- MDEC「DE Rantau Nomad Pass」
よくある質問
マレーシア移住に必要な資金はいくらですか?
取得するビザで大きく変わります。就労ビザ(EP)なら勤務先が決まれば大きな資産要件はなく、渡航・住居の初期費用として90万〜160万円程度が目安です。MM2Hはシルバーで定期預金USD15万(約2,000万円台)に加えてRM60万以上の物件購入義務があり、桁が変わります。月々の生活費は単身のローカル寄りで約11万円から、日本と同水準の生活で約30万円からが目安です(1RM=39円換算)。
ビザなしの90日を繰り返せば住み続けられますか?
できません。ビザ免除は訪問の資格であり、就労も就学もできません。近隣国へ出国して入り直すビザランを繰り返すと、入国審査で滞在目的を疑われ入国を拒否されるリスクがあります。長期に住むには就労(EP)、MM2H、学生・ガーディアンパス、DE Rantauのいずれかが必要です。
仕事が決まっていなくても移住できますか?
就労ビザ以外の入口なら可能です。資産があればMM2H、子供の就学が目的なら学生パス+ガーディアンパス、海外企業からの年収USD24,000以上のリモート収入があればDE Rantauが該当します。いずれにも当てはまらない場合、現時点で長期居住の道はほぼありません。
マレーシアの就労ビザは取りにくくなりましたか?
なりました。2026年6月1日以降の申請から最低給与基準が引き上げられ、カテゴリーIIIの下限が月給RM3,000からRM5,000になりました。判定は基本給のみで手当は算入されません。加えてカテゴリーII・IIIでは承継計画の提出が必須化され、雇用主側の負担も増えています。
移住すれば税金は安くなりますか?
単純にはなりません。マレーシアで税務居住者になるには暦年182日以上の滞在が必要で、それ未満だとマレーシア源泉所得に一律30%が課されます。またMM2Hの滞在義務(年90日)は税務の182日とは別基準です。加えて日本側で非居住者と認められるかは日本の税法で別途判断され、日本国内に収入源があれば課税は続きます。渡航前に税理士へご相談ください。
日本人は減っているのに移住して大丈夫ですか?
在留邦人は2020年の30,973人から2024年に20,025人へ減少しています。主因は日系企業の駐在員削減、円安による割安感の縮小、就労ビザ要件の引き上げです。「生活費が安いから」という動機だけの移住は為替で前提が崩れやすいため、教育・資産運用・気候・医療など、コスト以外の明確な目的があるかを確認することをおすすめします。
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