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マレーシア移住で老後を過ごす|年金生活の費用とビザの現実

最終更新日:2026-10-08 執筆:(ラブアン法人代表・クアラルンプール在住)

「老後はマレーシアで年金生活」というイメージは今も根強くあります。ただし円安と制度改定を経た2026年10月時点で、その前提はかなり変わりました。年金だけで暮らせるのか、どのビザで住むのか、医療と介護はどうするのか、最後に日本へ戻るときはどうなるのか。この記事では、老後移住に固有の論点だけを取り出し、公的な数字で「成立する条件」を示します。

結論:年金「だけ」の老後移住は、厚生年金の夫婦世帯でもぎりぎり

先に結論を書きます。厚生労働省が示す2026年度(令和8年度)の標準的な年金額は、夫婦2人分の老齢基礎年金を含めて月237,279円です。1リンギット=39円で換算すると約RM6,080。一方、クアラルンプールで夫婦が車を持ち、日本食も適度に取り入れる中間的な生活をすると、高齢期の医療保険料を含めて月RM9,700前後(約38万円)かかります(本記事の試算)。

車を持たずローカル寄りの生活に寄せれば月RM7,250前後まで抑えられますが、それでもモデル年金を上回ります。国民年金のみ(満額で1人月70,608円=約RM1,810)の場合は、単身でも生活費に遠く届きません。

つまり、マレーシアでの老後は「年金+貯蓄の取り崩し」か「年金+資産収入」が前提です。加えてビザ(MM2H)には定期預金という形の資金拘束があり、年齢とともに医療保険料も上がります。年金額だけで判断せず、取り崩せる資産が何年分あるかで計画を立ててください。

本記事の円換算は1リンギット=39円(2026年10月時点の目安)で計算しています。

年金額とマレーシアの生活費の比較(月額/1RM=39円換算)
区分円リンギット換算備考
厚生年金モデル(夫婦2人分)237,279円約RM6,080厚労省・2026年度の標準的な年金額
国民年金(満額・1人分)70,608円約RM1,810厚労省・2026年度
夫婦・ローカル寄り(車なし)約28万円約RM7,250本記事の試算(下記)
夫婦・中間(車1台)約38万円約RM9,700本記事の試算(医療保険込み)
単身・ローカル寄り約16万円約RM4,050物価・生活費の記事の試算

老後移住で使えるビザ:現実的にはMM2HのSEZかシルバー

マレーシアには「リタイアメントビザ」という独立した制度はなく、退職後の長期滞在は実質的にMM2H(Malaysia My Second Home)が担っています。働かない前提なので、就労ビザやノマドビザ(DE Rantau)は選択肢になりません。

老後移住の観点で重要なのは、SEZ階層に50歳以上の優遇がある点です。定期預金は21〜49歳のUSD65,000に対し、50歳以上はUSD32,000。ただしSEZはジョホール州フォレストシティなど指定エリアでの住宅購入が義務で、10年間は売却できません。住む場所が事実上固定されるため、医療機関へのアクセスや日本人コミュニティの有無を先に確認する必要があります。

エリアを自由に選びたい場合はシルバー(定期預金USD150,000、物件RM60万以上の購入義務、5年更新)が入口になります。ただし物件購入には州ごとの外国人最低購入価格も別途適用されるため、クアラルンプールではRM100万以上が実質的な下限です。各階層の詳細と誤解しやすい点は『MM2Hとは』の記事で詳しく解説しています。

サラワク州は連邦とは別の独自制度S-MM2Hを運用しています。2025年1月施行の改定で、主申請者は30歳以上、州内銀行への定期預金はRM500,000に引き上げられ、年30日以上の滞在が求められます。ビザは5年+5年更新、物件購入は義務ではありませんが、居住資格はサラワク州内に限られます。

滞在日数は年齢で変わります。連邦MM2Hの年間最低滞在日数(暦年累計90日)が課されるのは25〜49歳で、本人または帯同家族の滞在で満たせます。50歳以上の主申請者はこの最低滞在日数が免除されるため、日本と行き来する老後の生活設計と相性が良い制度です。運用は変わることがあるため、申請前に認可エージェント経由で最新の扱いを確認してください。

老後移住で検討されるビザの比較(2026年10月時点)
制度定期預金住宅購入期間年間滞在
MM2H SEZ(50歳以上)USD32,000指定エリアで義務(10年売却不可)10年50歳以上は免除
MM2H シルバーUSD150,000RM60万以上で義務(州の下限も適用)5年50歳以上は免除(49歳以下は累計90日)
MM2H ゴールドUSD500,000RM100万以上で義務15年50歳以上は免除(49歳以下は累計90日)
サラワク州 S-MM2H(30歳以上)RM500,000義務なし5年(更新可)30日(州内のみ居住可)

年金生活の生活費シミュレーション:夫婦でいくらかかるか

老後の夫婦世帯は、子育て世帯と支出構造が違います。教育費がない代わりに、医療保険料が年齢とともに重くなります。下表は、クアラルンプールまたはペナンで夫婦2人が暮らす場合の目安です。

「ローカル寄り」は車を持たず、駅近または配車アプリで移動できる立地に住む前提です。高齢になるほど運転の負担は増すため、老後移住では最初から車なしで生活が回る立地を選ぶのが合理的です。

医療保険は、60代以降は保険料が上がり、持病があると加入自体が難しくなるため、表では夫婦で月RM1,500と高めに置いています。実際の保険料は年齢・補償範囲・既往症で大きく変わるため、必ず見積もりを取って置き換えてください。

夫婦2人・年金生活の月間生活費の目安(KL/ペナン・1RM=39円換算)
項目ローカル寄り(車なし)中間(車1台)
家賃(コンドミニアム)RM2,500RM3,500
食費RM1,800RM2,200
光熱・通信RM450RM500
交通RM300(配車アプリ・公共交通)RM1,200(車1台)
医療保険(2人)RM1,500RM1,500
その他・予備RM700RM800
月合計RM7,250(約28万円)RM9,700(約38万円)
モデル年金との差約RM1,170不足(約4.6万円)約RM3,620不足(約14万円)

日本の年金は海外でも受け取れる:必要な手続き

日本の公的年金は、海外に住んでいても受け取れます。ただし受取方法と毎年の届出が日本国内とは変わります。日本年金機構の案内に沿って、主な手続きを整理します。

税金の扱いにも注意が必要です。日本の非居住者になると、公的年金は日本で源泉徴収の対象になりますが、租税条約の規定により届出をすれば免除を受けられる国があります。日本年金機構は年金の規定がない国としてカナダ・タイなどを挙げていますが、マレーシアはこの中に含まれていません。実際に免除を受けられるかは、届出前に年金事務所または税務署で確認してください。

マレーシア側では、税務上の居住者(暦年182日以上の滞在が目安)が国外で得た所得をマレーシアに持ち込んだ場合の個人向け非課税措置が、2036年12月31日まで延長されています。日本の年金がこの対象になるかを含め、日本・マレーシア双方の税務は税理士に確認するのが安全です。

  • 出国前:「年金受給者 国外居住 住所・受取機関 登録(変更)届」を提出(支払日の前々月末までが目安)
  • 受取口座:日本の銀行口座のまま、またはマレーシアの銀行口座を指定(ゆうちょ銀行は海外受取に使えない。海外送金の手数料は受給者負担)
  • 毎年:誕生月を基準に「現況届」と在留証明などの生存確認書類を提出(マイナンバーカードがあればe-Govで電子申請も可能)
  • 税:租税条約に基づく免除を受ける場合は「租税条約に関する届出」を提出
  • 在外公館:3か月以上滞在する場合は在留届を提出(旅券法上の義務。在留証明の取得にも関わる)

住民票を抜くか残すか:国保・介護保険・住民税への影響

老後移住で最も迷うのが住民票の扱いです。海外転出届を出して住民票を抜くと、国民健康保険と介護保険の資格を失います。一方で、転出届を出さなければ海外にいる間も国民健康保険料がかかり続けます。

住民票を残したまま国民健康保険に加入していれば、マレーシアでの受診費用の一部を「海外療養費」として払い戻せる場合があります。ただし払い戻しは日本国内の保険診療で算定した額が上限で、民間病院の実費との差は自己負担です。また、生活の本拠が海外にある実態で住民票を残すことは、制度の趣旨上問題になり得ます。

長期で住むなら住民票を抜き、マレーシアで民間医療保険に加入するのが基本線です。そのうえで、日本に一時帰国して治療を受けたい場合や、将来の帰国時期が見えている場合の扱いを、事前に家族と決めておきます。

住民票を抜いた場合・残した場合の主な違い
項目住民票を抜く(海外転出届)住民票を残す
国民健康保険資格喪失(保険料なし)加入継続(保険料がかかる)
介護保険資格喪失継続
国民年金(60〜64歳)日本国籍なら任意加入が可能国内居住者として扱われる
住民税1月1日時点で住所がなければ翌年度は課税されない課税が続く
マレーシアでの医療民間医療保険が前提海外療養費で一部払い戻しの可能性

医療と保険:高齢での移住で最大の壁

マレーシアの公的医療は外国人には実質的に使いにくく、民間病院が前提です。クアラルンプールやペナンの民間病院は水準が高く、日本語通訳を置く病院もあります。医療の質そのものが老後移住の障害になることは多くありません。

壁になるのは費用と保険です。2025年7月1日から、非市民が民間医療機関(年間売上RM150万超)で受けるサービスには6%のサービス税が課されています。さらに海外医療保険の多くは新規加入の年齢上限を設けており、上限は商品によって異なります。持病があると、その疾病が補償対象外になる例も少なくありません。

MM2Hの更新時には健康保険の加入証明が求められます。老後移住では「何歳まで加入でき、何歳まで更新できる保険か」を、移住を決める前に確認してください。60代後半以降に移住を考える場合、保険に入れるかどうかが移住の可否を決めることもあります。

介護・終活・帰国:出口を先に決めておく

老後移住で語られにくいのが、介護が必要になったときと、最期をどこで迎えるかです。住民票を抜けば日本の介護保険の対象外になり、マレーシア側にも外国人が使える公的な介護保険はありません。介護が必要になった場合は、民間の介護施設や住み込みの家事・介護サービスを自費で使うか、日本へ戻るかの選択になります。

多くの人にとって現実的なのは、「元気なうちはマレーシア、介護が必要になったら日本」という二段構えです。この場合、帰国して住民票を戻せば国民健康保険と介護保険に再加入できます。ただし帰国後の住まい(持ち家を残すか、賃貸を探すか)は、高齢になってからでは選択肢が狭まります。

終活の面では、マレーシアの銀行口座・定期預金・不動産の相続手続きは現地の法制度で進むため、日本の家族だけでは対応が難しくなります。現地資産の一覧と連絡先を残し、必要に応じて現地の遺言書作成も検討してください。

  • 介護が必要になったときの方針(現地で自費介護か、日本へ帰国か)を夫婦・家族で決める
  • 帰国後の住まいを確保できる見込みを持っておく
  • MM2Hの定期預金・物件をいつ、どう解約・売却するかの手順を把握する(SEZ・シルバーの物件は10年売却不可)
  • マレーシアの口座・資産・保険の一覧を家族と共有する

まとめ:マレーシアでの老後が向く人・向かない人

マレーシアでの老後は、温暖な気候、英語の通じやすさ、民間医療の水準という点で、今も魅力のある選択肢です。ただし「年金だけで安く暮らせる国」ではなくなりました。成立するかどうかは、年金額よりも、取り崩せる資産と医療保険で決まります。

移住の全体像は『マレーシア移住ガイド』、費用の積み上げ方は『マレーシア移住の費用』の記事もあわせて確認してください。個別の状況で判断に迷う場合は、無料相談で条件の整理をお手伝いします。

  • 向く人:年金に加えて取り崩せる資産があり、MM2Hの定期預金と住宅購入の資金を別枠で用意できる
  • 向く人:60代前半までに移住し、医療保険に加入・更新できる見込みがある
  • 向く人:介護が必要になったら日本へ戻る、などの出口を決めている
  • 向かない人:国民年金のみ、または年金だけで生活費をまかなう前提
  • 向かない人:持病があり、現地の医療保険に加入できるか未確認

マレーシア移住ガイドの記事一覧を見る

出典

この記事を書いた人

Yuto Nishitani のイラストアバター

Yuto Nishitaniラブアン法人代表

ラブアン法人代表。2025年10月にクアラルンプールへ単身で移住し、ラブアン法人の就労許可(Labuan EP)で暮らしています。ビザ・住まい・生活費を、移住した当事者として調べてきました。

X(@beginners_job2)

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よくある質問

年金だけでマレーシアで暮らせますか?

厚生年金の夫婦モデル(2026年度・月237,279円=約RM6,080)でも、クアラルンプールでの夫婦の生活費(車なしのローカル寄りで月RM7,000台、車ありで月RM9,000〜9,700程度)には届かないのが目安です(1RM=39円換算)。国民年金のみでは単身でも不足します。年金に加えて貯蓄の取り崩しや資産収入を前提に計画してください。

老後の移住に使えるビザはありますか?

独立したリタイアメントビザはなく、実質的にはMM2Hです。50歳以上はSEZ階層で定期預金USD32,000から申請できますが、ジョホール州フォレストシティなど指定エリアでの住宅購入が義務です。エリアを選ぶならシルバー(定期預金USD150,000、物件RM60万以上)。サラワク州には独自のS-MM2Hもあります。

マレーシアに住んでも日本の年金は受け取れますか?

受け取れます。出国前に国外居住の住所・受取機関の登録届を出し、日本またはマレーシアの銀行口座で受け取ります(ゆうちょ銀行は海外受取不可)。毎年、現況届と在留証明などの提出が必要です。租税条約に基づく日本の源泉徴収の免除は、届出が必要です。

住民票を抜くと健康保険はどうなりますか?

海外転出届を出すと国民健康保険と介護保険の資格を失い、保険料もかからなくなります。マレーシアでは民間医療保険が前提になり、非市民の民間医療には2025年7月から6%のサービス税がかかります。帰国して住民票を戻せば、国民健康保険と介護保険に再加入できます。

高齢でも医療保険に入れますか?

商品によります。海外医療保険の多くは新規加入の年齢上限を設けており、持病は補償対象外になることがあります。MM2Hの更新時には健康保険の加入証明が求められるため、移住を決める前に加入可能年齢と更新可能年齢を確認してください。

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