マレーシア移住 税金
マレーシア移住の税金|住民票・所得税・日本の非居住者の基本
最終更新日:2026-10-08
執筆:Yuto Nishitani(ラブアン法人代表・クアラルンプール在住)
「マレーシアに移住すれば税金が安くなる」という話はよく聞きますが、実際には日本とマレーシアの2つの国のルールが同時に関わり、どちらか一方だけを見て判断すると思わぬ課税を受けます。マレーシア側では「何日滞在したか」で居住者かどうかが決まり、日本側では「生活の本拠がどこか」で決まります。基準が違う以上、移住した年は両方の判定を別々に確認しなければなりません。この記事では、個人の移住者が押さえるべき税金の基本を、マレーシアの所得税、日本の住民票と住民税、出国時の手続き、年金と日本国内の所得の扱いの順に整理します。法人の設立・法人税は扱いません。
結論:税金は「日本の非居住者になれるか」と「マレーシアで182日」の2本立て
最初に全体像を示します。移住者の税金は、日本側とマレーシア側で別々の基準によって決まります。
マレーシア側は滞在日数が基準です。暦年で182日以上マレーシアにいれば、国籍に関係なく税務上の居住者となり、0〜30%の累進税率と各種控除が使えます。182日未満なら非居住者となり、マレーシア国内で得た所得に一律30%が課され、控除も使えません。
日本側は「住所(生活の本拠)」が基準です。1年以上の予定で海外に住む人は、原則として日本に住所がない者と推定され、所得税法上の非居住者になります。非居住者になると、日本で課税されるのは日本国内で生じた所得(国内の不動産の家賃など)に限られます。
そして、多くの移住者にとって最も効くのがマレーシアの国外源泉所得の免税です。マレーシアの居住者である個人が国外から受け取る所得は、2036年12月31日まで原則として非課税とされています。つまり「日本の非居住者になり、マレーシアの居住者になる」と、日本の国外にある所得については両国とも課税しない状態になり得ます。ただし、日本国内で生じる所得、出国時の含み益課税、年金の種類など例外が多く、個別の確認が欠かせません。
本記事の内容は2026年10月時点の公表情報に基づく一般的な解説です。税額は個人の所得構成で大きく変わるため、実際の判断は必ず日本とマレーシアの国際税務に詳しい税理士に確認してください。
マレーシアの居住者判定:182日ルールと3つの補足ルール
マレーシアの税務上の居住者判定は、所得税法(Income Tax Act 1967)第7条で定められています。判定の基準は国籍やビザの種類ではなく、マレーシアに物理的に滞在した日数です。MM2Hや就労ビザを持っていても、182日に届かなければ非居住者になり得ます。
日数の数え方にも注意が必要です。LHDN(マレーシア内国歳入庁)の公開ルーリングでは、1日のうち一部でもマレーシアにいればその日は1日として数えます。到着日と出国日はどちらも滞在日に含まれます。
182日に届かない年でも、前後の年との連続性などにより居住者とされる補足ルールがあります。移住した初年度や帰国する最終年度は182日に届かないことが多いため、この補足ルールが効いてきます。
| 条項 | 居住者となる条件 | 典型的に当てはまる場面 |
|---|---|---|
| 7(1)(a) | その暦年にマレーシアに合計182日以上滞在 | 通年で住んでいる移住者 |
| 7(1)(b) | 182日未満だが、前年または翌年の連続182日以上の滞在とつながっている(業務・療養・14日以内の短期の私的出国による中断は許容) | 年の途中で移住した初年度 |
| 7(1)(c) | その年に90日以上滞在し、かつ過去4年のうち3年で居住者または90日以上滞在 | 長期滞在者が一時的に滞在日数を減らした年 |
| 7(1)(d) | その年の滞在はないが、翌年に居住者となり、かつ過去3年連続で居住者 | 長期滞在者が1年丸ごと国外にいた年 |
マレーシアの個人所得税率:居住者は0〜30%、非居住者は一律30%
居住者に該当すると、所得から各種控除を差し引いた課税所得に累進税率がかかります。LHDNが公表している最新の税率表(賦課年度2023〜2025年に適用)は下の表のとおりです。
日本と比べると、課税所得RM100,000(約390万円)までの税負担はかなり軽く、この水準までの税額は最大RM9,400です。一方、最高税率30%が適用されるのは課税所得RM200万(約7,800万円)超の部分からで、日本の所得税と住民税を合わせた最高税率55%よりは低いものの、中間層での差ほど大きくはありません。
非居住者は税率表ではなく一律30%が課され、控除も使えません。移住初年度に滞在日数が不足して非居住者扱いになると、同じ給与でも税負担が大きく跳ね上がるため、就労ビザで働く人は初年度の日数管理が重要です。
なお、マレーシア国内で働いて得た給与は、勤務先が日本の会社であってもマレーシア源泉の所得として扱われる可能性があります。リモートワークで日本の仕事を続ける場合の扱いは、ノマドビザ(DE Rantau)の記事とあわせて、税理士に確認してください。円換算は1RM=39円(2026年10月時点の本サイト統一レート)で計算しています。
| 課税所得(RM) | 税率 | その区分までの累計税額(RM) | 累計税額の円換算 |
|---|---|---|---|
| 0〜5,000 | 0% | 0 | 0円 |
| 5,001〜20,000 | 1% | 150 | 約5,850円 |
| 20,001〜35,000 | 3% | 600 | 約2.3万円 |
| 35,001〜50,000 | 6% | 1,500 | 約5.9万円 |
| 50,001〜70,000 | 11% | 3,700 | 約14.4万円 |
| 70,001〜100,000 | 19% | 9,400 | 約36.7万円 |
| 100,001〜400,000 | 25% | 84,400 | 約329万円 |
| 400,001〜600,000 | 26% | 136,400 | 約532万円 |
| 600,001〜2,000,000 | 28% | 528,400 | 約2,061万円 |
| 2,000,000超 | 30% | 超過部分に30% | - |
| 非居住者(参考) | 一律30% | 控除なし | - |
国外源泉所得の免税:個人は2036年末まで原則非課税
マレーシアは2022年から、国外で生じた所得をマレーシアに送金した場合にも課税する仕組みに変わりました。ただし個人については免税措置が設けられ、当初は2026年末までとされていた期限が、2024年12月に官報公示された命令(P.U.(A) 451/2024)により2036年12月31日まで10年延長されています。
対象は、マレーシアの居住者である個人が国外から受け取る所得です。マレーシア国内で営むパートナーシップ事業の所得は対象外とされています。日本の銀行口座に入る配当・利子や、日本の不動産の家賃をマレーシアに送金しても、原則としてマレーシアでは課税されないということです。
ただし注意点が2つあります。1つは、国外所得のうち配当については、一定の場合に「源泉地国で課税済みであること」などの追加条件がLHDNのガイドラインで定められていることです。条件の適用対象は所得の種類や受け取り方によって変わるため、配当収入が大きい人は個別に確認が必要です。
もう1つは、マレーシアで課税されないことと、日本で課税されないことは別だという点です。日本国内で生じた所得(日本の不動産の家賃など)は、日本の非居住者になっても日本で課税されます。「マレーシアで免税=税金ゼロ」ではありません。
日本側の手続き:住民票・住民税・納税管理人・出国税
日本側で最初に関わるのが住民票です。1年以上海外に住む場合、市区町村に海外転出届を出すのが原則です。転出すると国民健康保険から外れ、住民税の課税関係も変わります。
住民税は、その年の1月1日に住所がある市区町村が、前年の所得に対して課税する仕組みです。たとえば2026年中に出国した場合でも、2026年1月1日時点で日本に住所があれば、2025年の所得に対する2026年度の住民税は課税されます。一方、2027年1月1日時点で日本に住所がなければ、2026年の所得に対する住民税は課税されません。出国時期を年末にするか年明けにするかで、住民税が1年分変わり得るということです。
所得税は、出国の年に確定申告が必要になる場合があります。納税管理人を定めずに年の途中で出国する場合は、出国の時までに、その年の居住者期間の所得について準確定申告をします。出国後も日本で確定申告が必要な人(国内に不動産所得がある人など)は、納税管理人を選び、届出書を税務署に提出します。
資産が大きい人は出国税(国外転出時課税)に注意が必要です。出国時に株式や投資信託などの有価証券等を合計1億円以上保有し、出国前10年以内に日本に5年超住んでいた人は、出国時に売却したものとみなして含み益に所得税が課されます。納税管理人の届出などの手続きをすれば、5年間(延長で最長10年間)納税を猶予できます。
| 手続き・論点 | 対象となる人 | ポイント |
|---|---|---|
| 海外転出届(住民票) | 1年以上海外に住む人(原則) | 国民健康保険の資格喪失、住民税の課税関係に影響 |
| 住民税 | 1月1日に日本に住所がある人 | 前年所得に課税。1月2日以降の出国でもその年度分は課税 |
| 準確定申告 | 納税管理人を定めずに年の途中で出国する人 | 出国の時までに居住者期間の所得を申告 |
| 納税管理人の届出 | 出国後も日本で申告・納税が必要な人 | 国内の不動産所得などがある場合に必要 |
| 出国税(国外転出時課税) | 有価証券等が1億円以上、かつ出国前10年内に5年超日本に居住 | 含み益に課税。手続きにより5年(最長10年)猶予 |
| 国民年金の任意加入 | 海外に住む20歳以上65歳未満の日本人 | 加入は任意。将来の老齢基礎年金額に影響 |
| 年金受給者の届出 | 日本の年金を受け取っている人 | 海外住所・受取口座の登録。租税条約の届出で源泉徴収が免除される場合あり |
出国後も日本で課税される所得:不動産所得と年金
日本の非居住者になっても、日本国内で生じた所得には日本の所得税がかかります。移住者に多いのは、日本の自宅を貸し出した場合の家賃収入です。
国税庁によれば、非居住者が受け取る国内の不動産の賃料は、借主が法人や事業者である場合などには原則として20.42%が源泉徴収されます。そのうえで、国内源泉所得が各種控除の合計を超える場合は確定申告が必要になり、納税管理人を通じて申告・納付します。日本の不動産を持ったまま移住する場合は、出国前に管理会社と税務の窓口を決めておく必要があります。
年金については、日本とマレーシアの租税条約が関わります。日本の年金を受け取る非居住者は、原則として日本で所得税が源泉徴収されますが、日本年金機構の案内では、租税条約を結んでいる国に住む老齢年金受給者は「租税条約に関する届出書」を提出することで、所得税の免除を受けられる場合があります。日本とマレーシアの条約では、過去の勤務に基づく退職年金は原則として居住地国で課税するとされています。
ただし、公務員としての勤務に基づく年金など、条約上の扱いが異なる年金もあります。受け取る年金の種類ごとに扱いが変わるため、届出の可否と、マレーシア側での扱い(国外源泉所得の免税の適用)は税理士に確認してください。
よくある誤解と、移住前に決めておくこと
最後に、移住者が誤解しやすいポイントを整理します。
1つ目は「住民票を抜けば日本の税金はかからない」という誤解です。日本の非居住者かどうかは住民票ではなく生活の本拠で判定されます。住民票を抜いても、家族や仕事、資産の中心が日本に残っていれば居住者と判断される可能性があります。逆に、出国後も日本国内の不動産所得などは課税されます。
2つ目は「MM2Hを取れば非課税」という誤解です。MM2Hは在留資格であり、税制上の優遇ではありません。税務上の居住者判定は滞在日数で決まり、MM2Hの最低滞在日数とも基準が違います。MM2Hの条件はMM2Hの記事で詳しく解説しています。
3つ目は「国外所得はずっと非課税」という前提です。個人の国外源泉所得の免税は2036年12月31日までの時限措置です。老後資金の設計など10年を超える計画では、期限後の扱いが変わる可能性を織り込んでください。
移住前に決めておくべきことは3点です。①出国時期(1月1日をまたぐかどうかで住民税が変わる)、②日本に残す資産と所得(不動産・有価証券・年金)、③納税管理人を誰にするか。費用全体の計画は、移住の費用の記事やマレーシア移住ガイドとあわせて確認してください。法人を設立して移住する場合の法人税は、本記事の対象外です。
- 出国時期:1月1日に日本に住所があるかで、その年度の住民税が決まる
- 日本に残す所得:不動産所得は出国後も日本で課税、確定申告が必要な場合あり
- 有価証券1億円以上:出国税の対象かどうかを出国前に試算する
- 年金:租税条約の届出の可否を年金の種類ごとに確認する
- マレーシア側:初年度に182日を満たせるか、非居住者30%になる期間がないかを確認する
出典
- LHDN(マレーシア内国歳入庁)「Tax Rate」個人所得税率
- LHDN「Taraf Mastautin(Residence Status)」所得税法第7条
- LHDN Public Ruling No. 11/2017「Residence Status of Individuals」
- LHDN「Guidelines on Tax Treatment in Relation to Income Received from Abroad(2024年6月改訂)」
- ACCA「Finance Act 2024(Malaysia)」P.U.(A) 451/2024による国外所得免税の2036年までの延長
- 国税庁 タックスアンサーNo.2875「居住者と非居住者の区分」
- 国税庁 タックスアンサーNo.1923「海外勤務と納税管理人の選任又は解任」
- 国税庁 タックスアンサーNo.1926「海外勤務中に不動産所得などがある場合」
- 国税庁 タックスアンサーNo.1478「国外転出をする場合の譲渡所得等の特例」
- 総務省「個人住民税」
- 日本年金機構「年金を受けている方が海外に居住するとき」
- 日本年金機構「任意加入制度」
- 財務省「日・マレーシア租税協定(BEPS防止措置実施条約による修正後の統合条文)」
この記事を書いた人
Yuto Nishitaniラブアン法人代表
ラブアン法人代表。2025年10月にクアラルンプールへ単身で移住し、ラブアン法人の就労許可(Labuan EP)で暮らしています。ビザ・住まい・生活費を、移住した当事者として調べてきました。
よくある質問
マレーシアで税務上の居住者になる条件は何ですか?
原則として、暦年でマレーシアに合計182日以上滞在することです。国籍やビザの種類ではなく物理的な滞在日数で判定され、一部でも滞在した日は1日と数えます。182日未満でも、前後の年の連続182日以上の滞在とつながっている場合などは居住者となる補足ルールがあります(所得税法第7条)。
マレーシアの所得税率はいくらですか?
居住者は課税所得に応じて0〜30%の累進税率です(LHDN公表の賦課年度2023〜2025年の税率表)。課税所得RM5,000までは0%、RM100,000までの累計税額は最大RM9,400(約36.7万円、1RM=39円換算)、RM200万超の部分が30%です。非居住者は一律30%で、控除は使えません。
日本の配当や家賃収入はマレーシアで課税されますか?
マレーシアの居住者である個人が国外から受け取る所得は、2036年12月31日まで原則として非課税とされています(パートナーシップ事業の所得を除く)。ただし配当には一定の場合に追加条件があります。また日本の不動産の家賃は日本国内源泉所得のため、日本の非居住者になっても日本では課税されます。
住民票を抜くと住民税はかからなくなりますか?
住民税は1月1日時点で住所がある市区町村が前年の所得に課税します。1月1日に日本に住所がなければ、その年度の住民税は課税されません。逆に1月2日以降に出国しても、その年度の住民税(前年所得分)は課税されます。出国時期で住民税が1年分変わり得るため、時期は計画的に決めてください。
日本の年金をマレーシアで受け取ると、日本で税金を引かれますか?
日本の非居住者が受け取る年金は原則として日本で源泉徴収されますが、日本年金機構に「租税条約に関する届出書」を提出することで免除を受けられる場合があります。日本とマレーシアの租税条約では、過去の勤務に基づく退職年金は原則として居住地国で課税するとされていますが、公務員としての勤務に基づく年金など扱いが異なるものもあるため、年金の種類ごとに税理士に確認してください。
出国税(国外転出時課税)は誰が対象ですか?
出国時に有価証券等を合計1億円以上保有し、かつ出国前10年以内に日本に住所または居所があった期間が5年を超える人です。出国時に売却したものとみなして含み益に所得税が課されます。納税管理人の届出などの手続きをすれば、5年間(延長で最長10年間)納税を猶予できます。
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